Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編




女は肩を怒らせズカズカと歩み寄ると、突然私の胸ぐらを掴んで顔をずいっと近づけた。


眉間には深くしわが刻まれており、そんな顔をすると40にも見える。肌の具合からそうだとも思えないが。


そして、女が放ったひと言。


「……おまえ、可哀想なやつだな」


つい先ほどまで怒りに満ちていたはずの瞳は、一転して悲しみに満ちたものへと変化していた。


「人からの好意や親切や優しさに、そんなふうにしか返せないなんて。どれだけ貧しい生活をしてきたんだ?」


そこまで批判されてはさしもの私も黙っては居られない。睨み付けてくる女の視線を受けとめ、目に力を入れて睨み返した。


「失礼だが、一般人であるあなたに貧者呼ばわりされる道理はない。私は本国では貴族階級に属している」

「そういうのじゃなくて!」


女はますます力を込めて叫んだ。


「あたしはね、心の貧しさのことを言ったんだ。そりゃあんたの身なりからして、そこらに転がってる庶民とは思えなかったよ。
だけどね。何て言うか……あんたの考え方が可哀想なんだよ。人に親切にされたら素直に受け取って“ありがとう”ってお礼を言えば済むんだ。
なのに、あんたはお礼どころか金で解決しようとする。それが貧しいってんだよ!」


ダンダン! と地団駄を踏んだ女は、心底悔しそうに私を見上げた。


「そんな腐った根性は、あたしが叩き直してやる! だから、明日もここに来い」


彼女はそう怒鳴って胸ぐらを放すと、私に何かを掴ませて思いっきり鼻先でドアを閉めた。