私はコーヒーは不得手ではあるが、必要に応じて口にすることはある。社交上必要ならばコーヒー好きを演じることもあるし、知識だとて少しはある。
だが……なんなのだ“コレ”は。
渋いだの言う程度の苦みではない。コーヒー豆を全て黒焦げになるまでローストし、何日もかけてドリップしたものを更に極限まで煮詰めたような。この世のものとは思えない苦み。
舌全体どころか口の中すべてが刺すような苦みに包まれて、呼吸する度に苦しくなる。不本意にも咳き込んだ私に、女は慌てて水をくれた。
「だ、大丈夫か?」
「問題……ない」
しかし、視界にうすぼんやりと白い膜が張られている。厄介なことにわずかながら涙が涙腺から滲んでしまったようだ。感情からくるものではないが、他人の前で涙を出すとはなんという屈辱だろう。
ポケットから出したハンカチを握りしめながら、少し手のひらが震える。
(いや、冷静になれ。このような場所でこれ以上失態を晒す訳にはいかない)
「あんたにはまだ早かったかな~この大人向けのブレンドは」
女はマグカップを掴むとすぐ近くのテーブルにおく。取っ手ではなく上からがっしりと鷲掴みだ。
「金髪碧眼なんてアメリカ人と思い込んでたからさ、だから特別にコーヒーをごちそうしたけど。もしかすると紅茶がよかった?」
「……」
答える意思も答える義務も微塵もない。
私は女の言葉を無視してそのまま布団を避けると、ベッドから降りて床に立つ。どうやらめまいは改善したようで、気分の悪さもあまりない。
簡単に衣服を整えてスーツを着こんだ私は、ドアへ向かって歩く。すると女が腕をがっしり掴んできた。



