じょぼじょぼと大きな水音が聞こえてきてすぐ、目の前にずいっ! と差し出されたのは薄汚れた白いマグカップ。ずいぶん年季が入って、ヒビまでがあった。
顔に押し付けられそうな勢いだったから、渋々受け取るが。飲み物を飲むなら身体を起こさねば無理だというに。先ほどの言動と矛盾している。
「あ、なんで起きるんだ! 寝てろって言ったろ」
「横になったままで飲み物など摂れるとでも?」
「あ、それもそっか」
私に指摘されてようやく気付いたのか、女は“あちゃ~”と額に手をやって唸る。
「ごめんね! あたしさ、あんま人の看病とかしたことないんだ。慣れないことはするもんじゃないよな」
男のような乱暴な言葉遣いで謝った後、羞恥心を感じたか女は視線を逸らしてマグカップに口をつけた。
(まったく……いい迷惑だ)
ゆっくりと起きた上半身をまっすぐに伸ばし、手元にあるマグカップに目を遣る。濃い茶色の液体は香ばしく深い香りを放っていて、既にコーヒーだと判ってはいた。
しかし、私はコーヒーが不得手だ。
あの苦い液体を自ら摂取する必要性など微塵も感じられない。
だが、介抱してもらった以上は礼儀として一口は味わうべきだろう。そう考えてマグカップに口をつければ……。
あまりの渋い苦さに、思考が体が一瞬で停止した。



