不要なものをきっぱり切り捨てる潔さは必要。いざというときのために身を軽くしておかねば、後々遺恨を遺すことになりかねない。
たとえば私が周りに勧められるまま結婚し、妻と子を得たとしよう。
妻と子どもならば愛しはしなくとも、それなりに慈しむ自信はある。相手からも慕われることだろう。
そこで、私が何らかの事件で命を落としたらどうなる?
遺された人間は犯人を恨むだろう。復讐も考えるかもしれない。
そのようなことは私が決して望まなくとも、怨恨は生まれてしまう。現に私はカイ殿下のボディーガードも兼ねて近侍している。他の侍従より遥かに命の危険度が高い。
仮定の話をしても仕方ないかもしれないが、命を落とす覚悟がある私には大切なものを増やす余裕などないのだ。
身心共に常にベストコンディションを保つのも義務。それゆえに毎日規則正しい生活を心がけている。
とはいえ、私も人間。
己の体調コントロールは完璧なつもりでも、時として予想外の事態に陥ることはある。
来日3日目。5月もすぐというその日はやたら朝から気温が上がり、日光がジリジリと照りつけて体を焼く。
「先に行って書類を渡しておいてくれ」
副官に指示を出して先行してもらった後、車に戻ろうと踵を返した瞬間。くらりとめまいがしてその場で膝を折った。
ただの立ちくらみならば気合いでどうにかしただろう。
しかし――堪えようがない吐き気と世界がぐるぐると回る酷いめまいと冷や汗と冷寒……耐えきれなくてその場で崩れ落ちた。



