だが――そんな理屈は、彼女を見た瞬間にぶっ飛んだ。
“逢いたい”。
その感情が何よりも勝り、アルベルトへ耳打ちしてからこっそり抜け出した。
ただ、顔を見るだけでいい。言葉を交わせずとも、そう考えていたのだが。
桃花が金髪碧眼のドイツ人に絡まれていたのを見た瞬間、頭に血がのぼり見境なく彼女を抱きしめていた。
『なんだ、おまえは!?』
『オレ? オレはタカミヤだけど?』
『……タカミヤ?』
桃花を誘惑していた相手にあえて偽名を名乗るが、怪訝な顔をしている。やはり私の顔を知らないようだ。
典型的なゲルマン系の顔立ちでなかなかの美形ではあるが、異国で働いていながらその国のことを知ろうともしない。あまり真摯な性格ではないようだ。おそらく、その外見で言い寄る異性は多かったのだろう。妙に自信ありげだ。
だが、そんなちゃらんぽらんな軽い性格で、桃花をモノに出来ると自惚れるとは。ちゃんちゃら可笑しい。
私がククッと喉を鳴らして笑えば、相手がわかりやすく激昂する。こういった自信過剰な輩は、案外目上や権力に弱いものだ。だから、私は自らの身分を明かした。二度と桃花に手出しされないように。
『私はこのヴァルヌスの第一王子、カイ·フォン·ツヴイリングだ。桃花は私が20年前からずっと欲しかった女性だ』
私は周囲に向けてそう宣言した後、桃花の顎をつかみ皆の目の前でキスをした。



