桃花が駅前ターミナルのベンチに腰を下ろした。私とアルベルトが座るベンチは植え込みの陰だから、きっと姿は見えなかっただろう。ここにいると知らせたい気持ちと、今は駄目だと相反する気持ちに揺れながら見守る。


やがて、祖父が下町の労働者のような格好で桃花の目の前に現れた。わざと薄汚れ擦りきれた服を着て、肌を汚している。

(お祖父様……ノリノリでは?)


呆れた視線を向けながら推移を見守っていると、案の定桃花はお祖父様を助けようとしていた。

応急手当をするだけでなく、タクシーまで呼んで診療所へ連れていき、自腹で治療費まで立て替えたのだ。自分も心細い懐事情だろうに。


――変わらないな、と。自然と口元が緩んだ。


お祖父様が指定した診療所は、実は貴族が道楽で開設しているものだ。治療費が払えずにいる人びとに、無料同然で治療をしてやる施設。


だから、本来は正規の治療費を取ることはあまりないのだが、彼女を試すためか遠慮なく金額を出したようだ。決して安くない金額を。


なのに――彼女は躊躇わずに財布を開いた。知り合ったばかりの、見ず知らずの赤の他人のために。


『全く、見てて危なっかしいくらいに実直な方ですねえ。よくぞお一人でここまでたどり着いたものです。
ですが、お陰で彼女の人となりがよくわかりました。
カイ殿下が惹かれる気持ちも充分理解できましたから』


現在の貴族院議会の議長を務める彼――医師免許もある――が、そう穏やかに笑うと、お祖父様も目を細めた。


『そうじゃろ、そうじゃろ。我が孫ながらカイは目が高い。ワシも気に入った。あの娘さんならば将来の国母に相応しかろうて』