祖父との約束を守るために、空港での出迎えはキャンセルせざるを得なかった。たった一人で見知らぬ異国に降り立つのは心細いだろうに。思いっきり抱きしめて大丈夫とささやき、手を繋いで安心させてやりたいのに。


桃花の気持ちを思うだけでやりきれなさが胸を燻らせるが、今は雛鳥を見守る親鳥なのだと自分に言い聞かせる。





じりじりと、どれだけの時間を待ち続けただろう。首都にあるカッツエ駅のバスから彼女が――桃花が降り立った瞬間。


すべての音と、景色が消えた。


時間すら、感じなかった。


ふう、と息を吐く彼女。少しだけ伸びた髪をかきあげる彼女。二年前と違って、慣れたメイクは彼女をより綺麗にしていた。


「桃花……」


衝動的に、右足を踏み出していた。だが、腕を掴まれてその痛みに振り向けば、アルベルトが無言で首を左右に振る。


いつものスーツではなく年齢相応のファッションに身を固めた私とアルベルト。軟派な格好は慣れないが、身分を偽るには仕方なかった。そんな変装をしてまで黙って見に来たのに、ここで出てしまってはすべてが水の泡だ。


ギリ、と唇を噛みしめて先に駅を出る。こうなっては桃花を見守るしかない、と諦めの気持ちで駅前広場のベンチに座った。