本当ならば、一人の子どもだけひいきする訳にはいかないだろう。
一人を特別扱いしてしまえば、他の子どもも同じようにしなければ誰もが納得すまい。
気の毒な境遇の人間を手厚く遇する。言葉では簡単だが、それにどれだけの人手と費用が掛かるのか。
北欧のように税率が高くその代わりに福祉が充実している国々ならともかく、ヴァルヌスはそれほど国庫に余裕がある訳ではなく、できることなど限られている。
だから私が少年のささやかな夢を叶えたいと考えても、実現するのは難しかった。
(しかし……)
楽しそうに絵を描く男の子は、父親とともに馬に乗る彼自身を描いていて。それを見た瞬間、再び胸が締め付けられた。
日本にいた時に働いていたスーパーで、型遅れのゲーム機でも遊びたいと涙を流す少年がいたことを思い出す。
亡き父親が買ってくれた思い出の品はぼろぼろではあったが、少年にとって唯一無二の宝物だった。
今、目の前にいる男の子も同じ。大切な父親との思い出を忘れたくないのだろう。
幼かった私と同じに……。
(すべてが終わったら……また会いに来よう)
私が所有する馬を連れて。桃花とともに。
きっと、桃花も子どもが好きだから喜ぶだろう。この豊かな森のそばで、馬に乗り皆で遊ぶのだ。
――きっと私も、幼い自分に戻りたいのだろう。少女時代の桃花と作りたかった思い出を、こうして作りたいと思うほどに。
男の子とは約束をしなかったが、必ず決着を着けてからまた来ようと胸に誓った。



