(桃花が……ヴァルヌスのことを考えてくれていたとは)
その温かな事実は私のなかにじわじわと浸透して、胸にぬくもりと愛しさを呼び起こす。だが、それ以上に桃花への激しい想いが渦巻いて、今この場に彼女がいたら確実に抱きしめていただろう。
きっと、私の帰国後にヴァルヌスを知ろうと調べたに違いない。ヴァルヌスの国情を知らねば養殖等という発想すら出ない。西ヨーロッパの小さな国、というだけで実際にどんな立地か判る人間は少ないだろう。 それだけ桃花が関心を持ってくれているのだ。
「桃花は……ドイツ語の方は?」
「ふふ~やっぱり気になるんですのね? だいじょうぶ、桃花ちゃんはきちんと手配されたヴァルヌス出身の家庭教師から学んでますから。もちろん、ボランティア同然のお値段にしておきましたから」
ほほほ、と澄ました笑いをする富士美には、どこのお嬢様だとツッコミたくなる。
「先生も、かなり熱心で覚えが早いって感心してらしたわ。昼には働いて夜は学生をして。毎日毎日忙しいはずなのに、予習復習を欠かさないって。
桃花ちゃん、それでも毎日楽しいって笑顔なのよ。あんな生き生きした桃花ちゃん、初めて見るわ~頑張ってるのね、あなたに逢うために」
「………」
富士美に改めて言われると、恥ずかしくて無意識に視線を逸らしてしまう。正直なところ照れくさいのだ。
「あらあら~! 王太子になる方がそれじゃあダメよ。もっとでん、と構えなきゃ。桃花ちゃんが来たら頼れるのはあなただけだから、しっかりしなきゃね」
トン、と胸を指先でつつかれて、確かにそうだと富士美を見返した。
「桃花ちゃんも自分ができる最大限の努力をしてる。あなたも負けちゃダメよ。ヘタレ脱出しなきゃ、桃花ちゃんを渡さないから」



