『バーク卿、本日はようこそお越しくださいました』
『これはカイ殿下、こちらこそお招きありがとうございます』
国内でも有数の一流ホテル·リッド·ゲミュートにあるレストランの個室を借りてのバーク卿とのビジネスランチ。いよいよバーク卿とのご対面に緊張もするが、思ったよりも気さくそうなひとだった。
フランクス·バーク伯爵はイギリスから移住した、アイルランド系の元英国人。主に貿易業を営んでおり、ヴァルヌスの国営企業の幾つかで大きな取引先でもある。
爵位を得たのは10年ほど前で、長年の課題だった地方への線路の敷設を成し遂げ、鉄道の全線開通で地方の発展に寄与した功労で祖父国王陛下が贈られた。
ヴァルヌスは国自体の平均標高が高く、北アルプスの山岳地帯に属する地方も少なくない。険しい渓谷に挟まれ、ほぼ孤立し自給自足で暮らす陸上の孤島も幾つかあった。
周囲の大国に比べて小さな国であるヴァルヌスでは、国の予算でできることは限られている。隣接する国から通じる路線なら協力も要請できるが、大部分の国民には無関係な地方の事情はどうしても後回しになる。
ましてや技術的に困難を極めて、膨大な予算と時間が必要となれば予算を当てることすら難しい。それを、バーク卿は率先して行ったのだ。
そして、その動機というか理由がただ1つ。
“妻がそこの温泉に入りたいとこぼしたから”……と。誰もが唖然とするものだった。
だが、赤毛で鷲鼻の彼は体格も非常に大きく、どら声で怒鳴るように話すために誤解をされがちだが。彼は相当な愛妻家で家族想いの人だ。気まぐれではあるが、タヌキよりよほど情が深い。だから、私は彼の手を借りることを選んだ。



