母上は、私より前に一度ご懐妊されていた。
けれど、シュトラウス公爵の妨害で誕生は叶わなかった――と。
順調に育ち生まれていれば、私に代わって第一位王位継承者となられていた兄か姉。その命が、あの公爵によって散らされていたのだ――と。
当時私は当然生まれていなかったから、母上や父上の悲しみを直接は知らない。
だがどれだけ打ちひしがれ、悲しまれたことだろう。異国から嫁ぎようやく懐妊をされて――不安や心細さが和らげられたに違いない。
王位継承者の妻となるということは、その血を確実に後世に残す義務も負う。そのプレッシャーたるや想像もつかないが、その義務をようやく果たせて。どれだけ安堵されたことだろう。
産み月まで指折り数えながら、大切に大切に労り愛したに違いない。愛情深い母上と父上だから、たとえまだ見ぬ子どもでも精一杯愛されたはずだ。
なのに……あの公爵は己の野望の為に、その命を潰えさせたのだ。
腸が煮えくり返るとはこういうことかとわかるほどの怒りが、私の中に渦巻いて抑えるのに必死だった。
『母上……それが本当だとしたら……シュトラウス公爵に相応の罰を与えるべきです』
私がそう提案したにもかかわらず、母上はゆっくりと首を横に振った。
『当時、わたくしの体調と初めての懐妊ということで、外部への公表は安定期まで控えていたの。だから、懐妊の事実を知るのはごく一部のみ。それが仇となって、つけ入れられてしまったのです。
まだ尻尾を出さない相手に言い掛かりをつけ処罰することは、あちらに絶好の口実を与えるきっかけになってしまいますよ』



