『カイ』
アルベルトを従えて部屋を出る前に、母上に呼び止められた。
『少しお待ちなさい。せめてお食事を済ませてからがいいわ』
『……ですが』
『シュトラウス公爵にはお待ちいただくよう、わたくしからお伝えしておきます』
母上には珍しいきっぱりした口調。私は開いたドアから出られずに、体ごと母上に向き直った。
『公爵を待たせるのですか?』
『待つのも臣下の仕事です』
母上は悠然と茶器を片付け、侍女の手を借りて夕食の準備を始めている。
『あまり迎合したくないならば、失礼にあたらない程度に尊大な態度を取ることも必要です。ましてや、あなたに非常識な接見を申し込んできた。そんな相手に気を遣う必要などありません』
母上にそこまで言わせる相手も珍しい。普段から温厚で決して人を悪いふうにおっしゃらないだけに、母上の憤りはその内容よりショックだった。
『母上……シュトラウス公爵となにかあったんですか?』
『……あまり、あなたの耳には入れたくは無かったのだけど』
すっかり準備が整ったテーブルに座るように、と母上に促されるまま席に着く。アルベルトは私の後ろに控えたまま。
母上が向かい側の席に腰を下ろされると、専用の給仕がワインを開けてグラスに注いだ。
食事中に会話をすることは好ましくないかもしれないが、両親は私が幼いころから家族の団らんを大切にしてくださった。
欧米の上流階級では子どもはマナーが完璧になるまで大人と一緒に食事をしないという奇妙な習慣があったが、父上がその慣習を廃止したからこうして家族で食事を取れる。そのことに感謝をしたい。
(私も桃花と新しい家族を持ったら団らんを何より大切にしよう)



