コンコン、とノックの音がして「入れ」と促せば、外にいた近衛兵がドアを開く。燕尾服に身を固めたアルベルトが姿を現すと、胸に手を当てて敬礼をしてから用件を伝えてきた。
『カイ王子殿下、シュトラウス公爵よりご挨拶に参りたい、とのご伝言をお預かりいたしました』
『いきなりだな』
『左様でございます』
普段は私情など一切交えないアルベルトさえそのように評するほど、唐突であり得ない行動だった。
公的には私はずっとヴァルヌスにいたことになっていて、交換留学の話は表沙汰になっていない。マスコミにすらリークは厳禁になっていて、国際的な報道協定で秘匿とされている。
なのに、帰国した途端にプライベートではなく“公的”に挨拶に来たいと伝えてくるとは。公爵とは普段から疎遠だったと雅幸から聞いていた。ならば、これは挑発や宣戦布告以外の何物でもあるまい。
『……向こうからわざわざおいでなさるとは。よほど勝算の心積もりがあるらしい』
『御孫であられるフランツ殿下もお健やかにお育ちでいらっしゃいますから』
『ああ……そうだな』
フランツは叔母が遺した唯一の子どもで従弟にあたる。たしか今は15だった……タヌキと違って素直に育ち、兄のように私を慕ってくれている。
できれば巻き込みたくなどはない。彼が爵位を得て無事に成人出来るまではタヌキに大人しくしてもらいたかったが、どうやらそうもいかなさそうだった。



