けれど、残念なことに幸せな時間は長く続かなかった。糖分を摂って頭が動きだしたのか、桃花は目を見開いて呆然としていた。
「あっ……わ、私……」
状況に気づいたらしくたちまち顔を赤くした彼女は、両手で口元を覆ってベッドで後退りする。無駄なのにな、とささやかな抵抗を笑って流した。
「まだ、半分も食べてない。ほら、ちゃんと口をあけて」
「あ、あの! 私……自分で食べられますから!」
「いや、きみは疲れてるだろう? 私が可愛がりすぎたせいで、動くのも辛いはずだ。だから、素直に甘えなさい」
「……!」
可愛がりすぎたという言葉で、今までの甘い時間を思い出したらしい。湯気が出ないのか不思議なほどに、桃花の顔が真っ赤に染まる。
その動揺に漬け込んで、私は彼女の口元にスプーンを持っていった。
「ちゃんと栄養を摂らないと、まだこれからの時間が辛いぞ。自分で食べるというなら、今から明日の朝までノンストップで君を抱くけど?」
「……!!」
むしろそうしたかったのに、桃花が慌てて口にしてしまって残念。けれど、その流れでさっきのレシピの話が盛り上がる。
「こんなに美味しいリゾットは初めてです。とても手間をかけて作られたんでしょうね」
「きみは……本当に料理が好きなんだな」
「……はい」
桃花は頬を赤らめながら、照れたように笑う。
「きっかけは、体が弱いお母さんでした。体調をよくするため、何をどうやって食べたらいいか……調べるうちに面白いって気付いたんです。食事は体だけでなく、その人を作る基本なんだって」



