このホテルの部屋には簡易キッチン等ない。だから桃花が眠っている時間を利用して、厨房を借りることにした。
「……一体何をなさるおつもりですか」
電話で頼んだ物を持ってきたアルベルトが、苦虫を噛み潰したような顔でロビーに現れた。
それも仕方ない。帰国に向けて多忙な中を、わざわざ来てもらったのだから。
「……ご寵愛が過ぎたそうだ」
老医師の呆れをそのまま告げれば、アルベルトはますます眉間のシワを深めてため息まで着く。理知的で思慮深い彼だが、さすがに腹に据えかねたようだ。
「何度も申し上げますが、今回は特殊なケースです。あなたがお約束なされたから、わたくしも黙認しているのですよ。そこのところはお分かりですか?」
約束……それは、今回の件で桃花を懐妊させないこと。そして、彼女と蜜月を過ごす交換条件として、確実に反体制派を駆逐すること。
異国にまで刺客を送り込むという暴挙に出た連中を、アルベルトは決して許さない。彼は保守的でガチガチの石頭だが、何よりも私や王家を案じてもいるのだ。それだから、王子に牙を剥いたという事実は彼にとり敵と認定する理由にもなる。
今までも散々王国で妨害を受けてきたが、手段を選ばなくなってきたやつらを放置していては、誰のためにもならない。
反体制派は日和見主義の遠縁の男を、傀儡(かいらい)の王としようと画策している。唯一の王子である私の王位継承権を奪い、その男を次期国王に据えれば国を半分支配したも同然だからな。
(誰が好きにさせるか……)
桃花のためにも、決して負けられない戦いだった。



