本当に、桃花は毒だった。それも極上の甘い毒。触れればすぐに溺れ、何もかも投げ出し彼女に夢中になる。それがわかっていたから、今まで抑えていたのに。一度手折った花が更に色づき艶を増すように、彼女はどんどんその甘さで私を虜にする。
ヤバい、と頭の中では警鐘が鳴る。だが、今だけだと自分を律しないことを決める。恥も外聞もない。今後年単位で逢えないのだから、今、この時を大切にしたい。ほんの一瞬一瞬の彼女の仕草や表情、それらを記憶に刻みつけるために。
だが、翌日から3日間彼女を可愛がりすぎたせいか、抱き潰してしまった。全く衰えない自分にも驚く。
こういうことに関しては、今まで自分は淡白な方だと思っていた。この年で、全然経験がないとは言わない。だが、いつでも一度きりの刹那的な関係だったというのに。桃花に限っては、尽きることがなかった。
「――ちょっとご寵愛が過ぎませんかな?」
目覚めない桃花を心配して馴染みの老医師に往診を頼んだところ、呆れたように疲労ですよと告げられた。 あと、若干の貧血と。
きちんと食事と休息を摂らせるように、と念押しされ見送るとやれやれと肩をすくめて自嘲し、己に問いかける。
(このまま桃花を一度手放せるのか、私は?)
答えは、決まりきって“否”だった。



