初めて桃花と結ばれたところで、足りない。全然彼女が足りない。
彼女と繋がる幸せを味わってしまえば、その甘い毒を味あわずにはいられない。文字通り、夢中で桃花を貪った。
初めての時は労る余裕もあったが、回数を重ねるごとに艶を増す彼女に、溺れる他ない。一時でも離れれば、飢餓状態になる。
大学時代、誰かが○○が足りない、と彼女の名前を挙げていた。その時は何をバカな、と内心笑っていたが。今その意味をようやく知る。
足りない。桃花が、きみが全然足りない。
もともとこのホテルには、1週間の予定で予約を入れてはいた。それが帰国前に自由になる精一杯の時間で、桃花といるために事前に過酷なスケジュールをこなしておいた。
だが、これならと気を失ったように眠る桃花を抱きしめて、彼女の額に唇を落としつぶやく。
「……やはり、離したくはない……」
本音が、漏れる。心の底からの望みは、ヴァルヌスにともに帰ること。理性などなければ、余計な自制心などなければ、きっとそうしていた。
私の権力をもってすれば、桃花を強引にモノにするのは可能だ。ヴァルヌス王国第一王子という身分だけでなく、母の実家である高宮の力もある。 彼女がいくら拒もうが、周囲の反対を押しきり妃にもできる。そう出来る自信もある。
だが、大切にしたいからそれはしない。
批判なく堂々と彼女を迎えるためには、周囲に正式に認められる必要がある。
何より、きみにはきみ自身の人生があるのだ。日本で夢を叶えてから迎え入れても遅くはない。難しい道をあえて歩くのは、互いの未来のため。
きっと、困難を乗り越えたきみは、より大きく人間的に成長できるだろう。
それが、きみをもっと輝かせる糧となるのだから。



