Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編





「ん……」


微かな桃花の声で、ハッと意識が現実に戻る。どうやら寝返りを打ったらしい桃花の、その寝顔がこちらを向いた。


安心した顔ですやすや眠る無防備な彼女。元凶である大谷が捕まった今、もう悪夢に苛まれることはないだろう。


オレが出来たことなど、ほんのわずかしかない。すべては彼女が戦う決意をして、自らの力で過去を乗り越えたからだ。


(やはり、きみは強かった)


弱そうでいて負けん気が強い。それはそうだろう。年の離れた妹を十代の頃から一人で育ててきたんだ。妹へさえ限りなく優しい。他人の子どもにすら優しい。 それはただ甘いのではなく、芯が通ったしなやかな強さだ。


(たしか大谷には一人娘がいたが、桃花だったらきっと気にして助けたいと言うだろう)


困った人間を、決して見捨てられない。愚かなまでに……その慈母のような深く広い愛情は、国の母に相応しい。桃花だったら、国民が何百万人いようが等しく愛せるに違いない。


ましてや、自分の子どもなら……どれだけの愛情を注ぐことか。


それを想像しただけで微笑ましい気持ちになるが、同時にまだ居もしない桃花の子どもへの嫉妬に気づく。いつだって彼女を独り占めしたいし、いつだって彼女に見ていて欲しい。そんな願望が頭をもたげて、ベッドの端に座りながら彼女を見つめる。


「まったく……きみは本当にオレを翻弄してくれる」


微苦笑しながらも、桃花の頬へそっとキスを落とす。もちろんそれだけで済むはずもなく、ゆっくりと移動しながら耳の端を軽く噛めば、少しだけ艶めいた吐息が彼女唇から漏れる。


そのまま襲いたくなるのを理性で抑え、触れるだけのキスをしてからシャワールームへ向かった。