タクシーの中で眠ってしまったから都合がいいというのでもないが、桃花を予約してあったホテルへ連れていく。
本当ならこんなシティーホテルのツインではなく、一流ホテルのエグゼクティブルームと言いたいが、まだ正体を明かしてない以上彼女が混乱することは避けたい。
桃花をベッドに横たえ落ち着かせたところで、やはりと言うべきかアルベルトから着信があった。
『あなたが今から何をなさるのかは承知しております。私どもを遠ざけてまで手に入れたいものがそれですか』
侍従長と幼なじみとしてのプライドも、貴族の子弟としての誇りも傷つけられた彼はかつてなく硬い声音だった。
無理もない。アルベルトは幼なじみで学友でもあるが、親友として一度も親しみ馴染んだことはない。彼の家柄はヴァルヌスでトップクラスの公爵。第一の爵位を賜る彼の父は宮内大臣をしており、叔父の侯爵が議長をしている。かつていた婚約者は国内の伯爵令嬢だ。
そんな“立派な”血統に囲まれ育ったガチガチの保守派の彼が、平民……ましてや異国の女性を妻にするなど、言語道断で何が何でも阻止したいだろう。
ことある事にオレを諌めては邪魔をしてきたのだ。反対することは目に見えていたから、別の件を申し付けて遠ざけておいた。
「アルベルト……おまえが桃花とのことを反対しているのは十分に判っている。だが、卑怯と言われようとも、オレはもう自分を抑えない」
『……どんな影響があるのか、分かってらっしゃる上でおっしゃいますのか』
「それぐらいわかってる。影響の大きさも、議会の反発もな。だが、議会を変えるチャンスでもある。桃花のためならそれくらいやってやる。1年……1年であの議会の膿を出しきってやるさ。ご老人たちにはそろそろ隠居して余生を過ごして頂く時期でもあるだろう」



