カジュアルなイタリアンレストランに桃花を連れてきた。
わざわざ外に出るのは手間だし、なるべく桃花に寒い思いをさせたくない。警備の理由もある。
何より、今までさほど関わりのなかった男と外出など彼女も警戒するだろう。あくまでもショッピングモール内でという前提での店のチョイスだった。
イタリアの地中海沿いをイメージした店内で、木製のテーブルで向かい合って座る。夢にまで見たシチュエーションに、心臓がばくばく激しく鳴っている。どんな交渉事や公式の場よりも、今の方が遥かに緊張していた。
見た目では冷静に見えるよう取り繕ってはいるが、内心は落ち着いてなどいない。きっと脈拍数を計れば100オーバーは確実だろう。
(落ち着け……焦るな。慌ててドジを踏まないように)
会う人会う人に散々ヘタレ扱いされてきたんだ。レストランで食事をした程度では名誉挽回とはいかないが、桃花といい雰囲気にならねばと気を引き締める。
(やはり、こういった場は慣れないし、突然のことで驚くのも無理はないか)
桃花はメニュー表を手にしながらも、店のあちこちを見るのに忙しい。落ち着きがないのも、こういった店に縁がなかったせいもあるだろう。妹の結婚資金を貯めるため、今まで切り詰めた生活をしていたようだから。
(こんなファミレスよりちょっといいだけのレストランすら入らないような生活をしてたんだろう)
働くようになった妹の方がもっと普通の女性らしい生活を満喫してる。彼女にそこまで尽くす理由はもう消えたんだ。もっと、ありのままの自分のさらけ出してほしい。そう願って、食前酒としてのグラスワインを注文した。



