深夜、ドタンバタンと物凄い音がして目が覚めた。


階下から祖父の怒鳴り声も聞こえる。



あぁ、またか。



正直なところ、面倒臭い。


祖父は怒ると手がつけられなくなる。

だいたい原因は祖母で、たまに手を上げることもある。



放っておきたいけれどそうもいかない。


仕方なく降りてみると、台所で祖母が泣いている。

傍で祖父が何やら喚いていた。


「なに?どしたの?」


「お前には関係ない!早く寝ろ!」


一喝されてもこんなにうるさきゃ眠れるはずもない。


「だいたいお前は何度言っても分からんやっちゃな!」

祖母の前髪を掴んで引きずる祖父を慌てて止めた。


「もうやめなよ。痛いよそんなことしたら。」

「うるさい!お前は出て行け!俺に口を出すな!」

突き飛ばされて食器棚に頭を打ちつけた。


「いっ…」

角にぶつけたようで、額をさすると血が出ていた。


余りの痛みにすぐに起き上がれない。


さすがに祖父も熱が冷めたか、くそっと吐き捨て部屋を出て行った。




「ふぅ…ばあちゃん大丈夫?」

泣きながら頷く祖母は、たまらなく哀れに見えた。


「ごめんねよみちゃん。」


小さな声が震えている。


見ていられなくて家を出た。





夜の路地を川添いに歩く。

初夏の夜は静かで、風が心地よい。



河原に降りて寝そべると、星が綺麗に見えた。



こういう時、悲しむものなんだろうか。

泣くもんなんだろうか。




どれが正しい感情なのか分からないけど、いつも何も感じない。


涙なんて出ないし、怒りも湧いてこない。



ただ、きっと死ぬまでああやって祖父は暴力を振るうんだろうと思うと、祖母が哀れで仕方なかった。