次の日から海斗は生徒会のメンバー(雑用)になり、さっそく働き出した。


「渡辺くん、この資料を世界史の吉賀先生に渡してきて下さい!」


「はーい!」


「あ、社会科の職員室に行くんだったら、ついでに日本史の通仁先生に明日の予習プリント貰ってきてくれ。」


「はーい!」


「あぁぁああ!渡辺くん!そこ踏まないで下さい!大事なプリントなんですっ!」


「ぅわぁあ!すいません!」


「海斗。」


「はい!」


「特に何にもない。」


「なんだよっ!?」


海斗が来てから何だか生徒会がにぎやかになった気がする。


バタバタしてるっていうのもあるけど、海斗の雰囲気にみんなが流されるって感じ。


相変わらず梨砂ちゃんは静かだけど。


生徒会長と熊田はだいぶと仕事が楽になったように思える。


問題なのは.....絵美ちゃんだなぁ。


仕事はまぁ、普段と変わらないスピードだけど、どこか集中力が削がれてるように見える。


俺はそんな微妙な距離の二人を見て楽しんでいるわけだが、そろそろ手助けしてやらないと。


「ねぇ絵美ちゃん♪」


「ん、何?真琴ちゃん」


「海斗さぁ、まだこの仕事に慣れてないと思うからさぁ、見てあげてくんない?」


「えぇ?!それは真琴ちゃんがやればいいじゃない......。」


「私じゃダメなんだぁ。絵美ちゃんじゃないと意味ないんだ♪
多分、社会科の職員室にいると思うから♪」


絵美ちゃんは文句を言いながらも海斗の後をおった。


これでよしっと.....。


まぁ、こうやってれば、いつかはくっつくだろう。


「真琴ちゃんっ」


「ん?なぁに♪」


俺も生徒会長からのお呼びだし♪


「ちょっと資料を運ばなくちゃいけないんだけど、熊田くん今、手が離せないみたいで....。
手伝ってくれないかなっ?」


「いいよぉ♪行こ行こ~」


「女の子なのに頼んじゃってごめんねっ」


「生徒会長もでしょっ」


そうだった。


俺、女の子だった。


最近、女の子意識が無くなってきたなぁ。


やばいやばい!


生徒会長以外は男って知ってるけど、生徒会長だけには女装男子とは知られたくねぇ!


みんなもそれとなく女の子扱いしてくれてるし、努力を無駄にはできない!


「ここだよ~。あの上から二段目、左から四番目の資料!」


「わぁ。結構、量あるねぇ。」


少し高い位置にあったため、生徒会長は脚立を持ってきた。


「私が取るから受け取ってねっ」


「オッケー♪」


あーあ。


ここでお約束の脚立から落ちてキャッチしてキュン♪みたいなこと起こんないかなぁ。


「んよいっしょっと....!はい、一個目!」


「はいはーい」


でも、しっかり者の生徒会長だし、そんな漫画のようなこと起こるわけねぇか。


「これ、最後ねっ」


「ぅ、重いね...結構....」


「そうだねぇ、半分ずつ持とうかっ」


生徒会長は無事に脚立から落ちず、お約束は起こらなかった。


うぅ、残念.....。


「よしっ!じゃあ、帰ろっか」


「うん!ありがとう、真琴ちゃんっ」


狭めの教室で資料が山ずみだったので、一列で歩いた。


俺が前を歩いた。


無駄に奥行きあるよなぁ、この教室。


「.....きゃっ」


生徒会長が資料に足を引っかけたみたいだ。


「大丈夫?って、え、ちょ、わぁぁぁ!」


生徒会長がそのまま俺を道連れに転けた。


持っていた資料は散らばり、俺は生徒会長に押し倒されているという逆転的な状況になってしまった。


「....いったぁ。あぁ!ごめんねっ!真琴ちゃ.....ん?」


「いてて....あ、いいよいいよ~」


「え....沢谷......くん?」


「へ?」


俺、今、女の子だよな?


どうして、沢谷くんって?


え?


制服も女子ので、頭もちゃんと....。


.......!?


俺のズラがない!?


やっっばい!


さっきの衝動で取れたんだ!


「どうして沢谷くんがここに...?っていうか、女子の制服着て...何やってるんですか....?」


「え、えーっと、これはぁそのぉ...。」


ここは素直に謝った方がいいな。


「ごめん!俺、男なんだっ!
沢谷真琴は男なんだ!」


生徒会長は頭が混乱しているようだ。


「一回.....屋上で会いました...よね?あれは....?」


「一人二役してました。」


「え、じゃあ、あの屋上で言ってたことって本当だったんですか....?」


「うん.....。"俺"は男で"私"は男なんだ。」


あぁぁぁ、言っちゃったなぁ...。


これで嫌われたな。


「私は....ずっと沢谷くんと一緒にいたんですか?」


「そういうことになります....。」


「そんな.....バカ!私....もう分かんないよぉ....」


「ごめん...」


沈黙が流れ、ある声が聞こえた。


「ふふっ」


え?笑い声?


顔をばっとあげると、泣いていたはずの生徒会長は笑っていた。


「なーんちゃって♪
そんなこと分かってましたよ♪」


「え....?」


「私は生徒会長ですよっ!?
生徒は全員チェックしています。
沢谷真琴という存在が二人も存在してないことくらいお見通しです!」


「え....じゃあ、どうして気づいてないフリなんて...?」


だいたい、検討はついてるけどな。


「熊田くんが面白いからほっておけってっ」


だろうなぁ。


あいつが黙ってるはずないよなぁ....。


「沢谷くん、良い女の子でしたよっ」


「はぁぁぁ、生徒会長ぉぉぉ」


生徒会長って案外意地悪だなぁ。


小悪魔って感じ?


無邪気に笑ってるなぁ。


可愛い.....。


「...!?」


俺もびっくりした。


いきなり、キスされちゃ驚くよな。


「沢谷くん....?」


ごめん...でも、止められない....。


「んっ....」


もっと.....もっと生徒会長の新しい一面がみたい。


「ん.....さ....わた....に...くん...」


キスはどんどん深くなっていく。


やっと離れた唇。


生徒会長は火照った顔で少し涙目。


抱きしめようと肩に触れたとき、俺は我にかえった。


震えていた。


「ぁ....ごめん.....」


手を下げ、沈黙が流れる。


生徒会長は下を向いていて一言も話してくれない。


俺はひたすら謝るしかない。


「いきなり、ごめん....生徒会長が好きなんだ...本当、ごめん...。」


生徒会長に謝り続けても、心の傷ってものはすぐには治らない。


しかも、唇を奪っておいて謝るしかない俺って屑だ。


「....ゃないです....。」


ずっと、喋らなかった生徒会長が口を開いた。


「嫌じゃないです。」