もしかしてと思い出したことだが、あのナンパの日の帰りも、真己は私を送るために誘いにのったのではないだろうか?買出しの品を手にして、店が忙しいことを忘れるとは思えない。

「真己くんの優しさは誰にでも向けられるけれど、菜々子だけに向けられた優しさがきっとあるはずだ」──ふと、父の言葉が頭に浮かぶ。私が気づいていないだけで、父さんにはわかるものがあるのだと。だから父は「真己だったら安心だ」と言ったのだ。

 私だけに向けられた優しさがあるとしたら、それは一体何なのだろう?
 毎回部屋まで送ってくれたのも、ナンパ事件の時に見せたようなさりげない気遣いや、好きな飲み物を覚えていてくれたのも、全部私だけに向けられた優しさだとしたら、一体何だというのだろう。
 そんな風に考えていくと、全てがそう思えてくるし、単なる自惚れにも見えてくる。
 そう、例えばこんなことがあった。