さほど広くない店内には、たくさんの絵本らしきものがひしめきあっていた。
表紙や背表紙は二つと同じ色はない。
私は、手近にあった薄い青色の絵本を手に取った。



(なんだ、これは…!?)



ページを開いた私は、呆気に取られてしまった。
なぜならば、その絵本には絵も文字もなく、すべてのページが真っ白だったからだ。
私はその本を元に返し、その隣にあった薄紅色の絵本を手に取った。
しかし、やはり、それも先程のものと同じく、ただ真っ白なだけだった。



「……ここの絵本は、みんなこうなのかい?」

「こうって…?」

「何も書いてない…」



少年は、私のその言葉に小さく笑い呟いた。



「そうか…お兄さんにはそんな風に見えるんだね。」

「では、そうじゃないとでも言うのかい?」

「ここに、絵本を買いに来た人にとってはね……」

「どんな風に見えるんだい?」

「それは、その人の見た通りにだよ。」

ここに来て以来、私はよく意味のわからない言葉に翻弄され続けている。
こんな小さな少年にもそんなことを言われてしまうとは思ってもみなかった。
きっと、詳しいことを聞いても少年は私の期待するような答えはくれないだろう。
もやもやした気持ちを抱きつつも、そう思い、さらなる質問はやめておくことにした。



「じゃあ…行こうか?」

「え…?!」

「……だって、お兄さんはここにいても仕方ないでしょ?」

「それはそうなんだけどなぁ…」

またか…
先程の水晶の丘の女性といい、この少年といい、私に謎めいたことを言うだけ言って、その結果として湧き起こった好奇心を満たさないうちにすっと私を突き離そうとする。
夢だから仕方がないと諦めるしかないのか…?



「この町に、他に面白いものはないのかい?」

あっさり諦めるのが少し悔しくて、私はそんなことを少年に尋ねてみた。



「う~ん…面白い所は何もないね。
ねぇ、お兄さんは旅人なの?
いろんな所を旅してるの?」

「そうだよ。
行く先を決めない気ままな旅さ。」

「良いなぁ…僕はこの町から出たことがないんだ。」

「大きくなったら、行けるようになるさ。」

「……そうだと良いんだけど…
あ、そうだ。
お兄さんの旅の無事を神様にお願いに行こうよ。」

そう言うと少年は私の手を取り、歩き出した。