「あら…あなたはこの前の…」

水晶の丘で、聞きなれたあの声を聞いた。



「おはようございます、玻璃さん。
こんな早くからお散歩ですか?」

その言葉に、玻璃が笑う。
笑いの意味を私はすぐに理解した。
早くから散歩しているのは、私も、同じなのだと…



「良い風が吹いてるでしょう?
ここは、朝が一番良いかもしれません。」

「そうですね。
朝の空気は、少し冷たくて透き通っていて…気持ち良いですね。」

「ここは、水晶の丘ですからね。」

「……はぁ…」

私には、いまひとつ、彼女の言っている言葉の意味がわからなかった。



「……そろそろここを離れられるのですね?」

「…ええ…まぁ…
そう出来たら良いなと思ってはいますが…」

私はありのままの気持ちを答えた。



「あなたを待ってる方がいらっしゃるんですね…」

玻璃までもが瑞月と同じことを言った。
しかし、そう言われても、やはり私に思い当たる人物は思い浮かばない。



「はい、どうぞ…!」

私が物思いから抜け出さないうちに、玻璃がどこに持っていたのか、私にスコップを手渡した。




「なんですか、これは?」

「スコップですわ。」

「そうではなくて…どういう意味かと…」

「まぁ、ご冗談ばっかり。
使ったら、どこかそのあたりに放っておいて下さいね。」

「ここで、水晶を掘れとおっしゃるのですか?
めったに出ない水晶を…」

「あなたになら応えるんじゃないかと…ふと、そんな風に思ったものですから…」

玻璃はそういうと、どこかへ行ってしまった。



(応える…?)

何が応えるというのだろう?
まさか、水晶に呼びかければ返事をするということなのか?
馬鹿馬鹿しい…
そう思ったが、その後ですぐに思い直した。
そうだ、ここは夢の中だ。
そんな馬鹿馬鹿しいこともありえないとは言えないではないか。



(どこにいるんだい?)

馬鹿馬鹿しいことと知りつつ、私は心の中で水晶に呼びかけた。



!!



その時、なにかが私の心の中に響いた。
耳にではなく、心の中に…
そう、竜に会った時と同じような感覚だった。



(どこにいるの?)

次に感じたのは泣き声のようなものだった。
私は、それを辿りながら、そこへ近付いていった。



(どこにいるんだい?)

(ごめんなさい…本当にごめんなさい…)

今度は明確な言葉として感じた。
水晶が謝っている…
理解出来ないことではあったが、ここはそういう世界なのだ。
私は着実に水晶に近付いていることを実感した。




(君はどこにいるんだい?)

(私は、ここよ…)

地面から空気のゆらめきのようなものが立ち上っている。
私は、その場所にスコップを差しこんだ。