少女が、格子戸を開けた時、ほんの一瞬眩い光を感じたような気がして私は目を閉じた。

次の瞬間、私がその目を開くと、私の隣には祠に向かって手を合わせる小さな瑞月の姿があった。



(これは……?)



そう、この場面は以前見たことがある。
彼が私をここに案内し、そしてここで二人でお参りをしたあの時だ。

その時、私の目の端を小さな物が過ぎ去った。
小指の先ほどの小さな物…
ふと目を上げれば、祠の脇には一本の桜の木があった。



「お兄さん、お願いはすんだ?」

「……あ……あぁ、すんだ。
瑞月…この桜…」

「……お兄さん…
どうして、僕の名前を知ってるの?」

「え……?」



(そうか、この時点では、私は彼の名をまだ知ってはいなかったのか…)



彼にどう答えたものかと考えている時のことだった。



「瑞月!」




「あ!ほむら様!」



これも、以前見たのと同じ場面だった。
しかし、この後が違っていた。



「瑞月…お参りに来るのは久しぶりだな。」

「うん、今日はこのお兄さんを連れて来たんだ。」

「そうか…では、気を付けて帰れよ。」

少女は、私の方を一瞥しただけで、どこかへ去ってしまった。




「…今のは神子さんかい?」

「そうだよ。ほむら様。」

「そうか…」



祠を出てから、時間が遡っている。
いや、祠に入ってからの時間が、まるでなかったことのように扱われているのだ。



(なんとも、難解な夢だこと…)



なかったことにされてはいるが、桜の木は私の望み通りに植えられている。
と、いうことは、おそらくあの神様も何事もなく、この祠にいらっしゃるということか…



(それなら、それで良い…)



「お兄さん、何を見てるの?」

「いや…美しい桜だと思ってな。」

「そうでしょう?この桜は年中、花を付けてるとても珍しい桜なんだよ。」

「そうか…」

風がそよぐ度に幾枚かのはなびらが、風に舞う…




「本当に、綺麗だな…」