「そうだったんですか…
しかし、私もこの神子さんと同じく、それはあなたのせいではないと思います。」

少女は私のその言葉にぱっと顔を輝かせ、微笑んだ。



「いえ…やはり私のせいでしょう。
私が未熟だったのです。
全てを明らかにしてやる事がその者のためになるという浅はかな考えが良くなかったのです。」

「……それでは、あなたは今後どうされるおつもりなのですか?
ご神託を授けるのをやめるということですか?」

「そうですね。
これからは、極力余計な事は言わず見守ることにしておこうと思います。
その方がその者のためになるということが、やっとわかりましたから…」

そういうと、神様はにっこりと微笑んだ。



「それはそうと…
あなたにはなにかお礼をしなければなりませんね。
何がお望みですか?
あなたの将来をお教えしましょうか?
それとも、なにか特別な力をお望みですか?」

「特別な力?
私が望めば、そのようなものまで下さるとおっしゃるのですか?」

「ええ…」

力をくれるなどと本気で言ってるのだろうか?
そう考え、私は思い出した。
ここが夢の世界だということを。

夢の中ならどんな難しい望みでも叶えられるのも当然だ。
何か突拍子もないことを言ってやろうかとも考えたが…私の口から出た言葉は、結局は普段の私が言い出しそうな言葉だった。



「では…桜の木を…」

「桜の木…?」

「ええ…年中散らない桜の木を一本お願いできますか?」

「そんなものでよろしいのですか?」

「はい、それが良いのです。」

「なぜです?
他にもっと欲しいものがなにかあるのではありませんか?」

「いえ…
不幸にして散っていった者達への手向けに…
そして、あなたの御心への慰めのため、加えて、この祠を訪れた者が少しでも幸せな気分になれるよう…年中美しい花を咲かせてくれる桜の木がほしいのです。」

神様は、私の心の中をのぞきこむようにじっと瞳をみつめていた。




「わかりました…
あなたのお望みのままに…」

「神様、ありがとうございました。」

私は神様に向かって、深深と頭を下げた。



「では、参りましょうか…」

少女が私の前を歩き始める。
それは、これ以上、ここにいてはいけないということなのだろう。
私は、少女について歩き出した。
途中で一度だけ後ろを振り返ると、神様は穏やかな表情で微笑んでくれた。