「あ…あぁ、それは、良かったですね。」

言った後で、自分でもなんとくだらないことを言っているのだろうと呆れてしまったが、言ってしまったものは仕方がない。
しかし、その男性は少しも嫌な顔はしていなかった。
相変わらず、穏やかな表情を浮かべている。



「あの…失礼ですが、あなたは…どなたなんですか?」

これまた実に馬鹿げた質問の仕方をしてしまった。
心の中にあるものを率直に出すと、そんなおかしな言葉になってしまったのだ。



「このお方は、神様です。」

男性ではなく、少女がそう答えた。




「神様…ですか?」

「たいしたことではありません。
このあたりで、そう呼ばれているだけのことです。」

「神様……」

竜の次は柩から起きだした神様か…
本当に面白い夢だ。
私は、そんなことを考えながらつい微笑んでしまっていた。



「このお方は、人間の未来を見透かすことの出来る素晴らしいお力をお持ちなのです!」

私が微笑んだことを悪い風にでも取ったのか、少女は少し怒ったようにそう言い放った。




「私は竜神様のお力をお預かりしているだけのこと…
しかも、私はその力を間違った方向に使ってしまいました。
そのために力を奪われ、数百年もの長い間、眠る羽目になってしまったのです。」

「私は、神様をお守りし、その力を取り戻してくれる人間を探すための神子です。
私で十四代目の神子なのですが、まさか私の代で神様がお目覚めになられるとは思いもしておりませんでした。」

そう語る少女の瞳には、うっすらと涙がたまっていた。



「間違った方向とは…どういうことなのですか?」

「神様は、その者にとって良かれと思われてそうされたのです!」

「……私は、見えたことをすべて、その者達に包み隠さず話してしまいました。
悪いことも良いこともありのままに……
それにより、ある者は努力することを一切やめました。
自分には幸福な未来が待っているのだから、何も苦しいことを頑張る必要はない。
そう考え、自堕落な生活に溺れ、そこでその者の未来はまったく違うものへと変わってしまいました。
そして、その原因にも気付かずに私を恨みながら自ら命を断ちました。
ある者は不幸な未来に絶望して死に、そして、またある者は、私の言葉通りの不幸な人生を遂げ…
私の言葉によって、大勢の人間が……」

男性はそう言って、初めてその穏やかな表情を曇らせた。