私も少女の後に続いた。
少女は、まっすぐに柩の所に向かっている。
そこで一体、何をするつもりなのか…?
私が、少女の行動を見守る中、少女は柩の前で立ち止まった。
そして、この前と同じように柩の前に跪き、恭しく頭を下げると、やはりこの前と同じような祝詞を唱えていた。

少女が何をしているのか…
この中には誰が…いや、何が収められているというのか…
そもそも、これは、私の推測通り柩なのか…
何もわからないままに私は少女の様子を見守るしかなかった。



その時…少女が思わぬ行動に出た。
柩の蓋を開けたのだ…!

柩の中には、一人の男性が横たわっていた。
やはり、私の思った通り、この箱は柩だったのだ。
そこに横たわる死人は、まるで眠っているように見えた。
しかし、生きている人間を柩におさめるはずもない。
一体、どういうことなのか……



私が考えをめぐらせていると、おもむろに少女が私の方に向き直り、頭を下げた。
そして、あの赤い宝石を死人の額の上に乗せた。
乗せたと同時に、宝石が額の中に沈みこんでいくではないか…
水滴が布に染みこんでいくかの如く、赤い宝石は死人の額の中に溶け込んでいく…

やがて、宝石の全てが吸収されてなくなってしまった…
呆気に取られていると、今度はその死人の目が急にぱっちりと開いたのだ。
私は驚きのあまり、短い叫び声を上げて後ずさってしまった。



その声に気付いたのか、死人がゆっくりと首を動かし私の方を見たのだ。
なんとも言えない優しさを持った瞳だった。



「あなたが、私を目覚めさせてくれたのですか…?」

それは、彼の視線同様、とても優しい声だった。



私がどう答えて良いのかわからず黙っていると、少女が私の代わりに答えてくれた。



「その通りです。
この方が、竜の瞳を持って来て下さったのです。」

「やはりそうでしたか…」

死人は、そう呟くと身体を起こし、棺から出て来た。
いや、彼は死人ではない。
今まではどうだったかはわからないが、とりあえず、今は死人ではない。



「ありがとう。
あなたのおかげで、また目覚めることが出来ました。」