「そういえば、今までにも私のようにここに来た人がいたんだろう?
その人達はどこにいるんだい?」

「その人達は、皆、竜に食われちゃったよ。」

事も無げに少年はそう言ってのけた。
先程の老人がおかしな態度を取ったのは、このためだったようだ。



「では、私も竜に食われるのかな?」

実際には、竜の存在自体を信じていないのだが、私はそんなことを少年に尋ねていた。



「……それはわからないけど…今の所、無事に帰って来た者はいないよ。
だから、お兄さんがまた行くことになったんじゃないの?」

「……多分、そうなんだろうな。」

自分が食われるかもしれないというのに、深刻な恐怖はなかった。
竜などいないと思っているせいか、それとも、ここが夢の世界だとわかっているせいなのか…?



「それで、竜はどこにいるんだい?」

「この先の竜神の滝壷だよ。」

私は少年に竜の棲む滝壷の場所を聞いた。
村人達には、近付くことを禁じられている聖域らしい。
そこに行く事を許されているのは、剣を携えた者だけだということだった。



村を抜け、人の気配がなくなるのと比例して山道には葉が生い茂り薄暗くなっていく。
夢の中とはいえ、山道は歩くだけでも息が切れる。



(そういえば、ここではすべてが現実的だな…
夢なら、もっと楽にしてくれても良いものを……)



今頃になって私はそんなことを考えていた。



(……と、いうことは、もしかしたら竜に食われる時の痛みも現実感のあるものなのか?!)



ふと、頭にうかんだ疑問に、私は身震いした。
存在は信じていなくとも、伝説や御伽噺で竜がどういうものなのかは知っている。
だからこそ、その時の状況も簡単に想像がつく。
そんな場面になる前に、どうか早く目が覚めてほしいものだと私は願った。

私は、なおも少年に教えられた方角へ歩く。
竜に食われるだろうとわかっていながら、律儀にそんな所へ向かう私も相当な変わり者だ。
やはり、夢の中でも基本的な性格や考え方というものは変わらないのだろうか?
現実的過ぎる状況に、心のどこかでは夢だということを忘れているのだろうか?



そんなとりとめもないことを考えているうちに、私はとうとう竜神の滝壷らしき場所に着いてしまった。