「付いて、来るか?」










思考回路が、遂に駄目になったみたいだ。

タクから言われた言葉を、私は理解できない。


だって。

絶対にこの人が言わないであろう言葉が、聞こえた。



優しく私に笑い掛け、私の手を握り締めたままのタク。

痛くないように、と左手でその人の右頬に触れた。

滑らかで、冷たくて。

少し、震えている。




「ねぇ、タク。もう一回言っ―――――」
「付いて来るか?東京へ」




その言葉が、欲しかったよ。

もっと早く、その言葉が聞きたかった。




抱きついてしまうと、腫れた頬を思い切り触ってしまいそうで。

タクに寄せた手でもう一度この人を確かめた。



目から溢れる涙が、なんだかとても温かくて。

私の頬も冷え切っていてのだと知った。




膝立ちになってタクを見下ろしていた私の腕を優しく引く。

そして、その腕の中に閉じ込めてしまうタク。



温かくて、優しいこの場所。

無くさずに済んで、本当によかった。




――――――ドクン、ドクン――――――




大きな音が自分の耳元から聞こえる。

自分の心臓がこんなに動いていたなんて。




と想っていたのに。

タクの腕が震えていて。



良く聞くとソレは、タクの心臓の音だった。




心臓がバクバク言う程、私のこと考えてくれてたんだ、と。

更に嬉しくなって、涙が溢れて止まらなかった。