拓海の声は、震えていた。

まるで何かに耐えるように。

それが何かなんて、聞かなくても俺にはわかっていた。


アミのところに今すぐにでも飛んでいきたい自分と。

アミとのこれからを真剣に考えるがゆえに、身動きが取れない自分。

どちらも優先したいが、どちらを優先しても自分が後悔することを、コイツは知っている。




「じゃあ、アミが大崎さんに攫われてもいいってのかよッ!」


『いいわけねぇだろッッ!!』


「じゃあッ!」

『とにかく。アミと連絡を取るのが先だ。今は逢いに行くわけにいかねぇけど、連絡を取ることは出来る。悪ぃな、切るぞ』


「おい、待て!タク――――」

――――プーッ、プーッ、プーッ、プーッ――――




一方的に切られた電話は、耳元で鳴る音が自棄に鮮明だった。

感情的になるのは珍しい。

それくらいタクは動揺していたし、それと同時に必死だった。



馬鹿野郎。

お前だってアミが一番で、自分の我が儘なんて通さねぇじゃねぇか。

お前ら似過ぎなンだよ。

頭でばっか考えて、結局身動き取れなくなったら意味ねぇじゃねぇか。



ただ、タクがアミに電話をしてくれることで何かが変わればいいと思った。

きっとアミは電話に出ないだろうけど。

何度もかかってくるタクの電話を無視することなんて、アイツには出来ないはずだ。




胸騒ぎは治まらない。

さっきまで綺麗に見えていた月は、雲に覆われてほんの少しの明かりが漏れる程度になってしまった。


どうか不器用な兄と友人が、賢い選択をしてくれるように、と。

雲の影に隠れた月に祈った。




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