博士と秘書のやさしい恋の始め方

私と猫の人が同じラボ……。

とすると、田中クンって……田中先生???

田中先生が猫の人、猫の人が田中先生……って、なんですとっ!?

あまりの衝撃に私は猫の人……田中先生を二度見した。

「何か?」

「い、いえっ……何も」

田中先生の表情が急に険しく冷たくなったように見えたのは、私の気のせいだろうか?

まあ、無遠慮にジロジロ見られていい気がする人はいないし。当然か……。

「うちのラボの秘書だったとは」

「私も、驚きました……」

あなたが同じラボの研究員だったとは。

IDカードを首から下げていたはずだけど、ちょうど白衣に隠れて見えなかったし。

それにしても、猫の人がまさか“あの”田中先生だったなんて――。

もちろん、そのことは声には出さなかったけれど。

頭の中はハテナ(?)だらけ。たくさんの疑問と戸惑いで、混乱していた。

「ミーティング、始まりますよ?」

「あ、はいっ」

私はあわてて、さっさとひとりで先を行く田中先生を小走りで追いかけた。

私のことなど構わずにずんずん前を歩いていく先生の背中からは、やっぱり少し煙草の匂いがした。