博士と秘書のやさしい恋の始め方

「もう、駿ママはなに山下さんと張り合ってるのよ。彼女、ドン引きしちゃってるじゃないのよ。ごめんね、山下さん」

三角さんは困惑する私を見て、沖野先生をたしなめた。

「へへへ、ごめーん。田中クンとアタシ、“村トモ”なんだー」

「村トモ???」

なんですか、それ……?

「田中先生と駿ママはゲーム友達なんですって」

「ゲーム、友達……?」

「そゆこと」

話はとても簡単だった。

田中先生と沖野先生は、村を作って田舎暮らしを満喫しようというオンラインのシミュレーションゲームをやっていて。ときどき、互いの村を行き来したりしている。

村では自分の収穫した作物を使って料理をして、それを友達にふるまったり。仲間同士でイベントに参加したり。

つまりは、そういう話。それだけの、話……。

「アタシも田中クンもゲームは好きだけどネットで交流するのとか面倒なんだよね。でも、仲間がいないと遊べないイベントとかもあるからさ。そういうときに助け合ったりしてんの」

沖野先生いわく、田中先生は旦那さん公認のゲーム友達だそうで(公認って……)、旦那さんの大事な後輩であり自分にとっても可愛い弟分みたいなものなのだとか。

ふたりが行き来していたのは、ゲームの世界のお部屋。

沖野先生がゲームをするのはお一人様の時間だけ(徹底的に夫ラブで息子ラブの人らしい)。

沖野先生も田中先生も“村トモ”はお互いしかいない、と。

だから「アタシには田中クンしかいないから」って。

そういう意味だったのね……。

話がわかって一気に脱力。

全身の力がへなへなと抜けていった。

「なんだ……そっか……そう、だったんですね。私、てっきり……」

「ん? てっきり、何?」

三角さんはおもしろそうに私の顔を覗き込んだ。

し、しまったっっ。

私ってば、なんだかほっとしてつい余計な言葉をぽろっと……と、気づいたときにはもう遅かった。