博士と秘書のやさしい恋の始め方

わらわらと急に人が増え(たぶんバスの到着時刻と連動している)、エレベーター前はいつの間にかオフィスビルの朝の風景になっていた。

ほどなくしてエレベーターが来ると、私はすぐさま乗り込んで扉近くの階数ボタンの前に立った。

職業病というべきか、下座である操作盤の前が自分の中ですっかり定位置になっている。

[開く]ボタンを押すのは私の使命、みたいな。

猫の人は、人波に流されるように奥のほうへ。

離れてしまった、というより……はぐれてしまったような。

なんとなく、そんな感じがした。

4階で半分くらいの人が降りて、5階で降りたのは私ともうひとり。

猫の人だった。

このフロアにあるラボは確か三つ。まさかご近所のラボの方だったとは。

「あの、どちらのラボの――」

私が言いかけた、ちょうどそのときだった。

「あぁ、山下さん」

「お、おはようございますっ」

お手洗いのほうから歩いてきた布川先生と出くわした。

「おはようさん。今日からよろしくね」

「こちらこそっ。よろしくお願いいたします」

「うんうん。まあそう構えずに、気楽にね。そろそろ朝のミーティング始めるから。ほら、田中クンも」

田中クン?

それって……猫の人のこと?