博士と秘書のやさしい恋の始め方

ぎこちなく会釈をすると、猫の人も会釈を返してくれた。

そして、私と同じようにエレベーターの前に立ち、なかなか数字の変わらない階数表示をじっと見上げた。

猫の人が纏う空気からは、ちょっと煙草の匂いがした。

エレベーターは6階まで降りてきたと思ったら、また止まってしまうし(機材の搬入出でもしているのだろうか?)。

たまたま他には誰もいなくて……ふたりきり。

沈黙に耐えかねた私は思いあまって猫の人に話しかけた。

「あの……猫、お好きなんですか?」

今の私の笑顔、たぶん思いきり引きつってるな……。

猫の人は私の問いに無表情のまま答えた。

「笑っちゃいますよね」

「えっ、そんなこと……」

男の人だって猫好きはいっぱいいるし。

私、バカになんてしてないのに。

「猫アレルギーなんです」

ええっ、なんですと!?