博士と秘書のやさしい恋の始め方

猫を見つめる男性の横顔は無表情だった。

でも、私にはピンときた。

この人、絶対猫好きだなって。

何を隠そう私も猫が大好きだから。

猫好きの勘というやつだ。

こちらがちょっとでも動いたら、たぶん猫はすぐさま逃げてしまう。

きっと、それが淋しいから。

だからこんなふうに動けずにいるんだ。

あぁ、気持ちがわかる。

わかりすぎる。

猫って可愛いもの。

猫って最高だもの。

わかるよ、わかる。

わかりますとも。

と、私が勝手に共感してその光景を微笑ましく見守っていたら――。

「(あっ……)」

ふたり(正確には男性ひとりと猫一匹)の横を、猛スピードでママチャリが通過していった……。

当然ながら、びっくりしたサバ柄は途端にどこかへ行ってしまい、白衣ひとりが取り残された。

淋しいね……。

うん、淋しいね。

でもきっとまた会えるよ。

と、またまた勝手に共感して、これまた勝手に陰ながら励ましていると――。

「(げげっ)」

ガラス越し、白衣のその人と目があった。

こ、これは気まずい。気まずすぎる。

覗き見なんて、盗み見なんて、とてもほめられた趣味じゃない。

卑怯者の私はとりあえず曖昧な笑顔で会釈をして、逃げるようにエレベーターへ向かった。

けれども――。

「(うぅ、9階って……)」

こんなときに限って、エレベーターが最上階にいる不運。

しかも、なぜかなかなか降りてこない。

結局、エレベーターの前で“猫の人”と一緒になるはめに……とほほ。