私はひたすら待つ女だった。

来るか来ないかわからない遊佐先生を待ちわびる。そんな週末を繰り返していた。

先生にとって土曜日は、誰にも邪魔されず論文に集中できる最良の日。

月金はどうしても事務方からの割り込みなどもあり思うようにはかどらないから、と。

だから、毎週の土曜出勤は当たり前。

そうして仕事をした帰りに、私のところへ寄ったり、寄らなかったり。

先生は約束をしたがらない人だった。

けど、それに不満があっても「仕事の状況しだいだから」と言われてしまうと……。

土曜日はいつも、来るかどうかわからない彼の為に部屋を片付け、食事をつくり、きちんとメイクをして彼からの連絡を待った。

ふたりで過ごすのはいつも私の部屋で、彼の研究の話を聞いたり、彼の要望でドイツ語を教えてあげたり。そうして翌朝、午前中のうちにきっちり自宅へ帰っていく彼を見送った。

たまには外へ出かけたいと言ってみたこともあるけれど、彼は「ごめん。日曜日は僕にとって唯一の安息日なんだ」と。口調こそ柔らかかったけど、かなりはっきり拒否された。

傍から見れば、彼に都合のいいように私が完全に振り回されているような関係。

それでも、そのときは――彼のことが好きだった。

恋に夢中で、どんなことも自分のいいように捉えられたから。

彼がこんなに甘えられるのは私だけ。

私だから彼の仕事の大変さが理解できる。

職場では徹底して「ただの顔見知り」を貫くことも苦ではなかった。

山根さんが「遊佐先生は秘密主義」と言っていたけど、その秘密になれることが嬉しかった。