手紙の内容に目を通した彼は一瞬怪訝そうな顔をして、それから呆れたように苦笑した。

「何なんだ、この手紙は……」

「風変わりではありますけどね。ちょっと詩的で情熱的、ですかね」

「いや、猟奇的だろう」

「猟奇的だなんてそんな」

彼が猟奇的と形容したその手紙は、神林駿くんが私に宛てて書いてくれたものだった。

「私にはちゃんと伝わりましたよ。えーと、駿くんの一生懸命さとか?」

そうして私はあらたまった調子でその手紙を音読した。

「“あなたのために心をこめてくり抜きました。目も鼻も口も。ぜひ見に来てください”って」

「やっぱり猟奇的じゃないか……。明らかに危険な手紙だ」

「まあ、そうですかねぇ。でもほら、ちゃんとジャック・オー・ランタンの絵も描いてありますし」

「それだって、6歳児とは思えないセンスだろう? どこの前衛芸術家だ」

「確かに……」

彼の言うとおり。駿くんが描いたと思しきお化けカボチャの絵は、幼児の作品とは思えない独特の世界をお持ちでいらっしゃる。

「沖野先生から聞いたんですけど、保育園のハロウィンイベントって毎年あるんですってね」

手紙は正確に言うと恋文ではなく招待状だった。

「ハロウィンの仮装をやるので見に来ませんか」というお誘いの手紙。

「よくは知らないが、子どもたちが散歩がてら仮装をして研究所内を回るらしい。聞くところによると、総務課に菓子をせびりに行くのだとか」

「“Trick or Treat?”ですね。っていうか、せびるって……」

そんな言い方しなくても……。彼の言い方にやれやれもうと苦笑する。