激しく後悔しながら、俺は大切に彼女を抱きしめた。

今度こそ受け止めさせて欲しかった。

「俺にしておきなさい」

悪いことは言わないから。あなたを悲しませるようなことは絶対にしないから。

だから、どうか――。

「俺を、選んでください」

まったく、恋というやつは……。

俺は、不安と苛立ちが混じったあの厄介な感情の正体を理解した。いや、ようやく認めたとでもいうべきか。

男の嫉妬ほど、みじめで見苦しいものはないな……。

しかしながら、そんな無様な自分を快く許してやりたい気がした。

「選んでくださいも何も……靖明くんでなきゃダメですから」

彼女が許してくれるのなら、彼女さえ俺を望んでくれたらそれでいい。

彼女のことが好きすぎて嫉妬心に苛まれるヘタレな自分もそう悪くはない、と。

かっこ悪い自分に潔く胸をはれる気がした。

「靖明くん、私ね」

「うん?」

「遊佐先生がラボのことをオフィスって言ったり、上司のことをボスって言うのが、なんかとっても嫌でした」

彼女は「ああスッキリした」という調子でそう言うと、可愛くふにゃりと苦笑した。

「俺も」

「え?」

「俺も同じことを思ってた」

まったく……まいったな。俺たちはまるで違うタイプのようでいて、やっぱりどこか通じているのだ。

本当に、俺にとって彼女はつくづく縁のある人なんだな……。

「今日は連れてきてくれてありがとう。夜景、一緒に見られてよかったです」

嬉しそうに微笑む彼女に、こちらのほうが礼を言いたい気持ちだった。

俺と、出会ってくれてありがとう。

一緒に――恋を始めてくれてありがとう。

「じゃあ、そろそろ帰ろうか」

「ですね。帰ってゆっくり落ち着きたいです」

ゆっくり、か……。

それよりもっと他にしたいことがある気もするが――とりあえず、それを言うのはよしておいた。