迷惑だなんて……。それに、ひとりよがりは俺のほうだ。

「俺が怒っていると?」

「わけがわからなくて嫌だったでしょ? 遊佐先生に失礼なことを言われて不愉快だったでしょ? ごめんなさい……」

「謝ることはない」

「私、ずるくて……」

「ずるい?」

いったい何がずるいというんだ?

「遊佐先生とのこと、できれば知られたくなかったんです。遊ばれて捨てられたみじめな自分とか、靖明くんにはあんまり知られたくないなって。だから、話さなくてすむものならって気持ちがあったのも本当なんです」

彼女は「結局こんなふうに話しちゃいましたけど」と情けなさそうに薄く笑った。

腕の中で弱弱しく心情を吐露する彼女が痛々しい……。

俺は愛しさをこめて彼女をいっそう強く抱きしめた。

「あなたはバカだ。人がいいにもほどがある。あんな男にだまされて。でも、あの“環境屋”は大バカだ。逃した魚の大きさに未だにまったく気づいていないのだから」

本当は――本当の一番の大バカ者はこの俺だ。

それこそ大人げないひとりよがりで、彼女に言いたくもないことを言わせて、困らせて、傷つけて……。

彼女のことを信じているのに、過去ではなく今を大事に思っているのに、どうして言ってやれなかったのだろう。

「何も言わなくていい」と、どうして安心させてやれなかったのだろう。

ただ信じているからと、どうしてまるごと受け止めて抱きしめてやれなかったのだろう。