布川先生の「頼めるかな?」は「頼めるよね、頼んだよ」であることを、俺はよく知っている。

「わかりました。すぐに俺が出たあとの作業予定を三角さんと調整します」

「すまないね。あ、もちろん直帰でいいから」

「了解です」

本所には彼女がいる。

彼女も夕方終わりで直帰の予定だから、ふたりで一緒に帰ってこられるはず。

明日は土曜だし、そのままゆっくりできるじゃないか。

心の中でほくそ笑んだ俺は、足取りも軽く三角さんのところへ午後の作業の相談に行った。

「あら? 田中先生、山下さんがいないのに意外と元気そうじゃない?」

三角さん、いきなり何を……。

まあ、今はテクニカルの居室にいるのは俺と三角さんだけだしな。

それにしても……敵わないな、この人には。

敵じゃなくて本当によかったとしみじみ思う。

「俺、布川先生の代理で急に本所に行くことになりまして。申し訳ないんですが、午後の作業予定を少し調整させてください」

「なるほど、それで元気なわけだ」

まったく……。まあ、事実といえば事実だが。

「先生と山下さん、うまくいってるみたいですね」

「おかげさまで」

実際、三角さんにはずいぶん世話になっている。

職場恋愛において信頼できる協力者の存在は大きいようだ。

「あ、そうそう。この間ね、ちょっと話題になったんですよ」

「話題とは?」

「うん。あのね、田中先生が山下さんに惚れてんじゃないかって」

「えっ」