博士と秘書のやさしい恋の始め方

パジャマ姿の私をよそに、先生はすっかり着替えていつでも出かけられるかっこうだ。

「何か希望は? パンでもおにぎりでも。あと、他に何か必要なものがあれば――」

「私も行きたいですっ」

なんとしても商品を自分で選びたいとか? 男性には頼みづらい買い物があるとか? まったくそんなんじゃなかった。ただ、先生と一緒に朝の街を歩きたくて。

「今すぐ超特急で支度しますからっっ」

「別に急ぐ必要はない」

すがるように必死になる私に、先生はゆったり穏やかに微笑んだ。

「各駅の速さで十分。ゆっくり支度してかまわないから」

「わかりましたっ」

先生はああ言ってくれたけど、やっぱり大急ぎで服に着替えて、申し訳程度のメイクをして素早く支度を整えた。

以前の私なら、待たせたら申し訳ないという気持ちがそうさせたかもしれない。

でも、今は――うきうきと逸る気持ちが抑えられなくて。

うっすらと雲のかかった空のしたを、先生と手をつないで並んで歩く。

街路樹の緑が青く深く瑞々しくて、新鮮な朝の空気が清々しい。

「B市って本当に緑豊かですよねえ」

「確かにキレイな並木道が多いし、公園もやたらと多いな。まあ、もともと緑しかない田舎だったわけだが」

「この木って、桜でしょうか?」

「そう。春には見事な満開の桜並木が見られる」

満開の桜、か……。

私がこのB市へやって来たときも、満開の桜が美しかった。

そして、四月という始まりの季節に先生と出会った。

あれからまだ半年も経っていないというのに、今はもう……なんだかひどく懐かしい。