博士と秘書のやさしい恋の始め方

困ったなぁ、なんだか動きたくないや……。

こんなに気持ちよく疲れたことってなかったと思う。

パジャマを着るのも、下着をつけるのさえ億劫で何もしたくない。

ただいつまでも、このとろんと甘いけだるさに包まれていたかった。

「まさしく猫だな」

目をつむってぐんにゃりと寝そべる私の髪を、先生がそーっと優しく愛おしげに撫でる。

それこそまるで毛並みに沿って猫を撫でてやるように、滑らかに、ゆっくりと。

「もうちょっとだけ、このままでいてもいいですか?」

「ちょっとと言わず気のすむまで好きにすればいい」

先生は私の気持ちを大事にしてくれて、見守るようにそばにいてくれた。

男の人ってこういう時間を面倒くさがりそうなものだけど、先生は違った。

こうして一緒に余韻を味わっている今がすごく幸せで夢みたい。

「先生」

「なんだろう?」

「えーと……ただ呼んでみただけです、ごめんなさい」

「本当に?」

嘘じゃなかった。

ただなんとなく声をかけたくて、声が聞きたくて。本当にそれだけだった。

「本当です。すみません……」

「いや、別に謝る必要はないが。ところで――」

「はい?」

「俺のことを敢えてなお“先生”と呼び続けるのには、何か理由が?」

「ええっ」

ど、どうしようっっ。

なんかいきなり切り込まれちゃった感じなんですが……。

「え、えーとですね……理由があるというか、なんていうかその――」

理由があるとすれば、なんて呼んだらいいのかわからないから……。ずばり、このひとつに尽きる。

正直、呼び名にしても、その呼び名で呼ぶタイミングにしても、どうしてよいやらわからず考えあぐねていた。

「ひょっとして、便宜上とか安全性を考えてのことだろうか?」

「え?」

「例えば、俺がラボであなたのことをうっかり“沙理”と呼んでしまったら問題なわけで。しかしながら、ふたりでいるときも“山下さん”と呼んでいれば、そもそも呼び間違える心配はない」

それ、遊佐先生が同じことを言っていた。

「だからプライベートでも僕のことは名前で呼ぶな」とも。

さらに「君は不注意で間違いをおかしそうだから」とも……。