博士と秘書のやさしい恋の始め方

っていうか――そもそも、ああいうのって有無を言わさず強引にするものだと思うのだけど……私の認識って間違ってる? 一般的じゃない? 

まあそれはともかくとして――。

「えーとですね、そのお気持ちだけで十分ですので」

とりあえず、丁重にお断りした。

だって、やっぱりそれなりに重たいだろうなって思うし。

それに、何より……恥ずかしいから。

そりゃあ身もふたもないことを言えば「これからもっと恥ずかしいことしようとしているくせに」ってことになるんだろうけど。

だからって、それとこれとはその……。

私って可愛くない。「嬉しい。お願いします♪」とか言うべきだった? 

っていうか、先生のこと傷つけちゃった? 気を悪くさせちゃった? 

でも、でもでもっ――。

「私をお姫様抱っことかしたら、先生は漁師か釣り人ですよっ」

「は?」

私の主張に怪訝そうな顔をする田中先生。そりゃあ、そうだよね……。

「ほら、あれですよ。大物の魚をわざわざ両腕で抱えて“こんなにデカイの釣れちゃいました!”みたいな絵」

「俺が漁師で、あなたが大物の獲物だと?」

「そうです」

あ、「大物の獲物」って言われて何も考えずに認めちゃったけど。なんかちょっと偉そうかも?

「あなたはまた何を言いだすかと思えば……」

先生がやれやれと呆れたように苦笑する。

でも、気分を害してはいないみたい。それはよくわかった。

先生はゆっくりと立ち上がると、わざと恨めしそうな顔をして私をじっと見下ろした。

そうして、握手を求めるみたいに私にすっと手を差し出した。

「俺は“おとなしく釣られておきなさい”と言ったのに」

ここで強引に抱き上げたりしないのが田中先生なんだなぁ、なんて。

うまく言えないけれど、私は先生のこういうところもまた好きなんだよね、って。

そんなことを思いながら、伸べられた手をぎゅっと握る。

「それとこれとは話が別です」

「そうでもない」

「そうでもありますよ」

先生にひょいと引っ張りあげられて、よいしょとゆっくり立ち上がる。

きっと、先生は釣った魚にエサはやらないなんてことはないんだろうな。

あ、うっかりエサをやり忘れて反省するとかはありそうだけど。

それに、女性のことを「モノにする」なんて言い方も決してしないんだろうな。

今夜これから、私を抱いても。