博士と秘書のやさしい恋の始め方

沖野先生と駿くんと私の三人で連れだって歩いていたときだ。

「田中クンは絶対に浮気とかしないだろうから安心しな」

本当に、なんとも唐突な激励だった。

もちろん、私だって田中先生に限って浮気なんてないはずだって信頼している。

でも――。

「あー、なんでそう断言できるのって顔してるぅ」

「そ、それは……」

図星だった。

だって、あまりにも沖野先生が自信満々に言うから。

「アタシだって根拠なしに言ってるわけじゃないよ」

その根拠って、いったい……。

沖野先生が知る限り田中先生が浮気したって話は聞いたことがないとか? 

そういう実績(?)が根拠なの?

「まあ、これ以上詳しいことはアタシからは喋らないけどねー」

沖野先生、ここまで話しておいてなんという酷な……。

「気になるじゃないですかっ」

「田中クンが話してくれるよ」

「え?」

「男って、惚れた女には自分の子ども時代のこととか語りたがるもんでしょ」

「そう、でしょうか?」

「そうだよ、そういうもん」

沖野先生はまたまた自信たっぷりにそう言い切ると「大丈夫」とニカッと笑った。

田中先生の子ども時代、か……。

まだ聞いたことはないけれど、やっぱり聞いてみたい。

先生はいつか話してくれるかな? 

私が先生にとって自分の子ども時代を語りたいと思える女なら、いつかきっと……。

それにしても――先生と私、まさかこのまま朝まで猫番組を見続けるのかしら? 

録画一覧には、まだまだたーっぷり録りダメしてあったし。

世界中の猫を制覇(?)しちゃったりして……。

それはそれで、まあいいのかな? いいのかも? 

けど――そうはならなかった。

「沙理、という名前は――」

初めてだと思う、先生が私の名を声に出して言ったのは。

途端に空気が変わった気がした。