博士と秘書のやさしい恋の始め方

田中先生にお酌をさせてる私って……やっぱりすごい? 

なんだか申し訳ないやら、でもおかしいやらで、思わずくすりと笑ってしまう。

「何か?」

「いえ、先生にお酌なんてさせちゃって……」

「気にすることはない。それより、瓶とグラスとどちらがいいですか?」

先生が持ってきたグラスはひとつだけ。

もし自分が持ってくる立場だったら、おそらく私はふたつ持ってきたと思う。

でも、先生みたいなやり方は嫌いじゃない。合理的というのかな? 

それに、お客様的な気遣いのない感じがかえって嬉しかった。

でも、それにしたって――。

「瓶のほうが量が多いですよ?」

「グラスのほうでいいですっ」

先生はどうしてこうも私を酒飲みにしたがるのか。

私が酔っぱらってしまったら、先生は襲えないはずなんですが……先生はそれでよろしいのでしょうか? 

などと問うてみたくなる(ま、できないのだけど)。

先生はどういう心持なのだろう。

「では、あらためてお疲れ様」

「お疲れ様です……」

瓶とグラスで乾杯しながら、心の中でひとりごちる。

“疲れること”とかしていないので、まだ疲れてないです。

いや、しいて言えばこのそわそわ感にちょっと疲れてきました……。

まあ、どれもこれも私の勝手なのだけど。

先生はといえば、きれいなブルーの小瓶を片手に、テレビの中の猫に夢中だし。

「この猫、沖野先生が飼いたいそうですよ」

「沖野先生も猫好きですもんね」

沖野先生といえば――先日、科学館で偶然会ったときに、少し気になることを言われたっけ。