博士と秘書のやさしい恋の始め方

先生と一緒だと、ありのままの自分でいられる。

「頑張らなくてもいい」と言うと語弊があるけれど、「へんな頑張り方をしなくていい」っていうのかな? 

今までの恋愛はいつだって、どこか頑張っていた気がする。

決してそれがいけないことだとは思わない。

好きな人ができて、その人のために自分磨きをするのって、恋すればこそだと思うもの。

でも、私の場合は――。

相手を喜ばせたいとか、そういう明るい前向きな努力とは少し違った気がする。

嫌われたくないとか、心をつなぎとめていたいとか、そういう不安からくる防衛策のようなものだった。

いつも自分に自信がなくて、だからこそ人一倍の努力をしなければと思っていた。

私と一緒にいたいと思わせる「何か」を持たなければ、きっと相手は離れてしまう。

だからいつも、相手に尽くして、相手の都合に合わせて……。

でも、結局は――男の人たちは、私の元から去っていった。

「すみません、一件だけメールの返信をさせてください」

先ほどからパソコンでメールチェックをしていた先生が、マウスをいじりながら私を振り返った。

「冷蔵庫の中に飲み物があるので、開けて好きに飲んでください。風呂と洗面台はあちらにあるので、シャワーもどうぞ。タオルは洗ったのが畳んであるので使ってください」

「あ、ありがとうございます」

ちょっと戸惑っていた。

よくよく考えてみると、私って男の人の部屋に来るのにあまり慣れていないのだ。

つきあう男の人たちは、どういうわけか大概が私の部屋に入り浸るようなかっこうになっていたから。

学生時代につきあった彼もそうだったし、社会人になってつきあった人も。

なんだろう、今思うと私の部屋って気ままな猫の別宅みたいだったような。

しかも、ときにはたくさんある別宅のうちの一軒にすぎなかったりして……。

だから――先生にあんな言い方をしてしまった。

先生のうちへ行きたいと素直に言えなくて、ぬいるぐみを預けてお邪魔する口実を作ろうとしたりして。

けど、先生は優しかった。

試すようなまわりくどい言い方をしたのに。

先生がこうして快く自宅に招き入れてくれて、とてもとても嬉しかった。

「山下さん?」

「えっ」