博士と秘書のやさしい恋の始め方

初めてお邪魔した田中先生の部屋は、なんというかその……独特の散らかり方をしていた。

「荷物はどこかそのへんに置くといい。床だけはきれいなので」

寝室+LDKの部屋はすべて床がフローリング。

床の上は塵や埃がまったくなく、掃除が行き届いていた。

でも――。

「先生、こんなこと言ったらあれですけど……机の上とかテーブルの上とか、床以外の場所はすごいことになっちゃってますね。雪崩注意報ですよ?」

きれいなのは本当に床だけ。

机もテーブルも本棚も、物が置けそうな場所には片っ端から本や書類が積み上げられている。

「まさにラボと同じ状況で面目ない……。床に物を置かないのは、あいつの作業の妨げになるので」

あいつ? 

先生が指さす部屋の隅っこを見遣ると、お掃除ロボットが大人しく待機していた。

「掃除機がかけづらいのは困る」

「なるほどですね」

って――そういえば、ラボでも……。

布川先生や古賀先生は机の周りに段ボールや何やらを置きっぱなしにしていることがあるけれど、田中先生は――。

机の上がもりもりになることはあっても、床はいつも片付いている。

今まで考えもしなかったけど、きっと私が作業しやすいように気を遣ってくれていたんだ。

「先生」

「なんだろう?」

「もしよかったら……そのお掃除ロボット、猫にしちゃいませんか?」

私の突飛な提案に、さすがの田中先生もきょとんと不思議そうな顔をする。

「猫、ですか?」

「三角耳とひげと尻尾をつければ猫っぽくなりそうじゃないですか」

「なるほど。飼えないならせめて、といったところか」

「どうでしょう?」

「まかせます、あなたに」