博士と秘書のやさしい恋の始め方

うまく言えないけど、先生ってやっぱりちょっと不器用なんだと思う。

「適切に」というのはできても、「適当に」というのは難しそうっていうのかな。

ある種の曖昧さが苦手っていうか、実直すぎるというか。

そういう「かたさ」を堅苦しいと捉えて、つきあいにくいと思う人もいるのかもしれない。

でも、私は――そういうところが逆にいいなって思う。

誠実なんだなあとも感じるし、それに――なんだか、ちょっと可愛いなって。

「失礼します。お待たせしました――」

ほどなくして、お通しと一緒に注文した飲み物が運ばれてきた。

えんどう豆を模したお皿の上に、豆一粒に一品(?)という具合に、冷奴と枝豆と切干大根の煮物が形よくキレイに盛られている。

「じゃあ、乾杯しましょう」

私がはりきって山ぶどうジュースの入ったグラスを持つと、先生も梅ジュースのグラスを手に取った。

「えーと、とりあえず……お疲れ様です」

「お疲れ様です」

先生とグラスをカチンと傾けつつ、頭の中は別のことでいっぱいだった。

「お通し、すごく充実してますね。どれも全部美味しそうです」

「そうですね。この店は、こういうところも手を抜かない」

お通しをいただくこと、というか――さっきから、お箸のことが気になって仕方がない。

「私は右手ですけど、先生って左手でお箸を持つじゃないですか」

「そうですが?」

「そうするとですね、私たちの間って――」

そう言いながら、私はちょっと腰を浮かせてもそっと先生の近くへ寄った。

「けっこうくっついていても食事ができちゃうんです。箸を持つ手がぶつかる心配がないので」

何を隠そう、この間からずっとこれをやってみたかったのだ。

先生が左利きだと聞いてからずっと。

自分でもバカみたいだなと思うけれど、こういうバカバカしいことが大好きなのが私なのだから仕方ない、うん。

それに――。

「それでさっき、席はそちらがいいと?」

「先生の右隣にいないと意味がないので」

「なるほど」

きっと、先生は一緒におもしろがってくれると思ったから。

私のつまらない遊びに快くつきあってくれると思ったから。